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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)5668号 判決 1974年7月19日

原告 株式会社安藤製作所

右代表者代表取締役 安藤岩夫

右訴訟代理人弁護士 金沢恭男

被告 東亜産業株式会社

右代表者代表取締役 足立勝義

右訴訟代理人弁護士 小林義和

主文

一  被告は原告に対し、金一一〇〇万円およびこれに対する昭和四八年七月二八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文第一、二項と同旨

2  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告

(請求原因)

原告は、昭和四七年二月二四日、被告との間で、I・A・D型四色グラビア輪転印刷機(以下本件印刷機という。)を代金一一八〇万円で被告に売り渡す契約をし、同年七月二五日、被告に対し本件印刷機を引渡したが、同年八月二日、代金額を金一一〇〇万円に減額した。

よって、原告は被告に対し、右売買代金一一〇〇万円とこれに対する弁済期の経過した後である昭和四八年七月二八日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告

(管轄違の主張)

本件売買契約には、本件機械を引渡したうえ試運転を完了した際に代金を支払うとの約定が存するから、代金は右引渡の場所たる被告方で支払うべき取立債務である。

また、被告は原告に対し、右代金の支払のために、支払地綾部市、支払場所京都銀行綾部支店とする約束手形を振出交付しているので、本件売買代金債務の義務履行地は同市である。

よって、本件訴は、東京地方裁判所の管轄に属さず京都地方裁判所福知山支部の管轄に属するから同裁判所に移送されるべきである。

(請求原因に対する認否)

請求原因事実はすべて認める。

(抗弁)

被告が引渡を受けた本件印刷機は、被告の指定したものと異なるものであったところから、原告と被告とは、本件売買代金の額および支払方法については原告が本件印刷機を被告の右指定どおりに修理し、当初予定した印刷が可能になったときに、改めて協議する旨約した。

三  原告

(管轄違の主張に対する認否、反論)

1  本件印刷機の引渡しと同時に代金を支払う約定が存したことは被告主張のとおりであるが、右は代金支払期の定めであって、支払場所についての約定ではなく、本件印刷機は、既に被告に引渡ずみであるから、本件売買代金の支払場所については民法第五七四条の適用はないというべきである。

また、原告は被告主張の約束手形を受領したけれども、原告が訴をもって請求するのは、右の手形金ではなく売買代金であるから、管轄は後者について決すべきである。

したがって、本訴については、商法第五一六条に基く本件売買代金債務の義務履行地たる原告の現時の営業所である表記肩書地を管轄する東京地方裁判においても管轄を有するものである。

(抗弁に対する認否)

抗弁事実は否認する。

理由

一  管轄の有無について判断する。

被告は、本件売買代金は本件印刷機の引渡、試運転完了の際に支払う約であるから、その支払場所は引渡場所たる被告方である旨主張する。

しかしながら、試運転完了の際に支払うとの約については立証がなく、本件印刷機が既に引渡されていることは当事者間に争いがないところであるから、本件売買代金の支払と本件印刷機の引渡との間の同時履行の牽連関係は消滅しているものであり、したがって、もはや民法第五七四条を適用する余地もないものというべきである。

また、被告は本件売買代金の支払のために原告に対し、支払地綾部市、支払場所京都銀行綾部支店なる約束手形を振出交付しているから、本件売買代金債務の義務履行地は綾部市であると主張する。しかして右主張のうち右のとおりの手形が振出交付されていることは当事者間に争いのないところである。

しかしながら、隔地者間の取引において既存債務の支払のために振出された手形の支払場所が振出人の取引銀行とされている場合には、受取人は満期に支払呈示のため、わざわざ右銀行に赴かなくとも、自己の取引銀行に取立を委任することにより容易に支払呈示ができるのであって、右の方法によることがむしろ通例と認められるから、受取人にとっては手形の支払場所もしくは支払地の所在地の如何はさしたる関心事ではないというべきであり、そうすれば右の記載は、特別の事情の存しない以上、既存債権につき履行期が到来して右債権を行使する場合の履行地を右記載の支払場所もしくは支払地に限定する合意までをも含んでいるものではないと解すべきである。

したがって、前示手形の支払場所等の記載は本訴の管轄を定めるにつき格別の意義を有しないものといわざるをえない。

そうとすれば、本件売買代金債務の義務履行地は、商法第五一六条第一項に従って決すべきところ、原、被告間には右代金の支払場所について他に別段の意思表示が存したものとは認められないから、原告の現時の営業所たる表記肩書地というほかなく、したがって同地を管轄する当裁判所も本訴について管轄を有するものといわなければならない。

二  本案について判断する。

請求原因事実については当事者間に争いがなく、抗弁事実については、被告において何ら右主張に沿う立証をせず、認めることができない。

三  よって、原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正久)

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